旅行記(ザンクト・モリッツ、ツェルマット、ミラノ編)その1

 

 1999年の秋のある日、その前の晩のパーティーで就寝は12時半頃、朝は6時に起き、8時33分チューリッヒ発。クールで乗り換え、ザンクト・モリッツに向かう。チューリッヒからクールまではスイス国鉄、クールからはRhB鉄道にての旅となる。チケットはいちいち買い求める必要は全くなく、チューリッヒで、今回の旅程、チューリッヒ→ザンクト・モリッツ→ツェルマット→ミラノ→チューリッヒ全ての切符を購入できた。    

 さて、チューリッヒからザンクト・モリッツまでは3時間22分かかった。クールからはザンクト・モリッツまでの1100メートルの標高差もありゆっくりとした旅である。ザンクト・モリッツに着くとさすがに1775メートルの海抜で、初めは息が苦しい。着いたのはちょうどお昼頃。とりあえずチェックインして荷物をおろし、昼食を食べに外出した。レストランを探しがてら小さな町をまず散策。市役所だろうか、とてもかわいい建物もあったがブランド店も多く、イタリアのお金持ちをはじめ、高級リゾートとしてハイシーズンにはたくさんの旅行客が来るのだろう。    

 Steffaniというホテル内のレストランで私はちょうど季節の食材Gemse(アルプスカモシカ)の肉を使ったGemspfefferを食べた。こってりとした焦げ茶色のソースとPfifferling(キノコの一種)の味付けで本当においしかった。添え物としてPolentaとRotkraut(紫かんらん)、主人はLampsteakとフレンチフライと野菜。普段30分前後で出来上がるような食事ばかり作っている私にとっても、それを食べさせられている主人にとってもなかなか舌を堪能させてくれる昼食だった。                                                       

 ただ、私は一つ嫌な思いをした。隣のテーブルにおばあさん、若夫婦、5,6歳の女の子と赤ちゃんが座っていたが、そのおばあさんが私を物珍しげと言うより何か汚いものを見る目でじっと見ているのである。確かにそのレストランには昼時で一杯の客がいたにも関わらずアジア人は私だけで目立つといえば目立つ。それにチューリッヒでも人々の視線を感じることは多々あるので、見られること自体は「見たけりゃ見れば?何か得があるの?」という感じで心の中で言いながら我慢しているのであるが、このおばあさんときたら更に私を見やすいように身を乗り出している。そして隣に座っている孫娘に「ほら、見てごらんあの人、あれがアジア人よ、ちゃあんと見ときなさい!」(もちろん想像だけれども、おばあさんの目つき、手つきからしてそう言っているように見えた。)と言いながら私を指差しているのである。 怒り心頭、噴火寸前、私はババアをにらみ据えた。そうすると、そのまたとなりに座っている息子だか義理の息子だかになにやら「まあ、あのアジア人、私をじろっと見ているわ。どうしてかしら?わからないわ。」と言ったことを話している。息子は私の方を見た。私はすぐさま前に座っている主人に、その息子に見えるように、嫌な目に遭っている顔つきをした。そしてその息子にも「なんなのあんたの母親は?」と言った顔つきをしてやった。その家族はいそいそと、恐らく私の視線を背中に感じつつ支払いを済ませて出ていった。  

 こんな事はスイスではしょっちゅうなのである。一対一のレベルでは非常に良い付き合いが出来るが、やれスイスに住んでいる外国人という無名の立場になるとスイス人からの侮蔑感を味わうのである。所詮スイスも小国、金融業等あるけれど世間知らず、世界知らずの人は本当に多い。基本的に自分たちの生活が大事なのである。「世界一」なスイスに入ってくる外国人には、とっても困ってるのである。勿論お金を落としてくれる観光客は別なんだろうけど。

 ところで今回の旅行は、遅蒔きながら新婚旅行という名目なので、私は主人に愚痴を言いつつも気を取り直し、このきれいなザンクト・モリッツを探索することにした。  

 まずはザンクトモリッツ湖畔を散策。雪がまだ地面に残り、ローシーズンのため人もあまり歩いていず、いい散歩の時間だった。そしていい腹ごなし。旅行となるとよく歩きはするけれど、それを上回るように食べるのでとにかく歩いて歩いて体重増加を防ぐのが私達の旅行のルール。 昼食を食べたホテルから湖に下り、バート地区あたりの湖畔から湖沿いにザンクト・モリッツ駅まで1,5キロ弱を歩いた。歩けば寒さなど感じなくなるもので、澄んだ空気の中を歩くのは本当にいい気持ちだった。そして泊まったホテルAlbanaの隣にあるHanselmann's  Konditoreicafeでコーヒータイム。エスプレッソとWiener Apfelstrudel(アップルパイ)を食べたが、このデザートはバニラソースとフルーツの付いたかなりおいしいものだった。    

 そのあとまたまた腹ごなしをしないといけなかったが、昨夜の寝不足と歩き疲れから、ホテルに戻り休憩。読書をしたり書き物をしたりとゆっくり過ごした。私達の部屋はスイスでいう6階(日本で7階)で最上階の、ザンクト・モリッツ湖とピッツスレイ山が見えるところで、恐らくローシーズンだからこんないい部屋が当たったのだろう。  

 お菓子を食べたとはいえ旅行中は食べまくる私達のこと、6時半頃夕食を食べるレストランを探しに外出。ローシーズンでもあり開いているレストランも多くなく、私達はSchweizerhofの1階のレストランに入った。私はサラダとサーモングリルとバターライス、主人はサラダとKalb、Beef、PorkのミックスステーキにRoestiと温野菜。普段あまり肉を食べない(与えられていない)主人は肉づくしだ。食後はチェリー、アップル、ピーチのシャーベットとクリームとフルーツのデザートを二人で食べた。 よく食べるなあと我ながら思うけど、私達の隣のテーブルに座っていた老婦人は、前菜がミートソースパスタ、次にサラダ、肉料理のメインコース、そしてチョコレートパフェのようなものを全部平らげた。全て量は普通ぐらい。少食の人なら最初のパスタで十分おなか一杯になる量である。ひょろっと背の高い、品の良さそうな、恐らくお金持ちでホテル暮らし、ほぼ毎日このホテルに食べにきているような感じのその老婦人は、まあよく食べた。やっぱりザンクト・モリッツはお金持ちのリゾート地なのか、と言ってる私達は汚い格好で4つ星レストランにいる。その老婦人も特別おしゃれをしているわけではなかったけど気品が漂っていてそこが違うのだ、庶民とは。    

 と言うわけで、食べて歩いての一日目は終わり

05/08/01